タレントアビリティ
「今はもう15時だ。今から明洲君に会いにいく事は出来やしない。仕事が詰まっていて、今日は自宅で執筆に明け暮れているよ。あっちゃんが来る前に連絡したら怒られた。全く、彼は何様だろうか……。とにかく、明日の9時、その封筒を持って彼のアトリエに行ってほしい。場所は同封しているから大丈夫。京都市内に彼はいるよ」
「なーに? じゃあわざわざ今日こんなタイミングで呼び出したのはなんで?」
「それは勿論そえ君を見るためであるのと、あっちゃんに会うためだよ。どうだい? 久しぶりに食事でもどうだろうか。勿論僕がご馳走しよう。今日はもう何も無いからな、締切日は一昨日だったんだ」

 ポケットから赤いお札入れを出しながら要は言った。隣の能恵の様子をちらりと伺うと、何やら喜んでいるというようではない。
 何と言うか苦笑い。いやーびみょーだなーと、そんな表情だった。

「お誘いうれしーんだけどねー、かなちゃん。かなちゃんさぁ、酒癖むっちゃ悪いじゃん?」
「何だって? 君にそういう風に見られているのか僕は?」
「いやいやかなちゃん。かなちゃんの飲みっぷりと酔いっぷり見たら、誰だって判断しちゃうよー。脱ぐし吐くしキスしようとするしセクハラ強要しようとするし。私もかなちゃんも女なんだから、後者2つとかアウトだよ?」
「でも君から飲みに誘ったりしてくれるだろう?」
「その時にいっつも大変な目に合ってるのは私じゃん! ノンアルコールなんてかなちゃんは無理なんだから、またいつかの機会にさせてよねー」
「むう、そうか……。そうだな、今日は諦めよう。なら、そえ君と京都でも回ればいい。ホテルは予約しているんだろう? 夕食にはそうだな、京料理の美味しい店があるんだ。後でメールしておこう」
「あ、それうれしー。ありがと、かなちゃん」
「いいさ。あと、そえ君、ちょっといいかい?」

 ひらひらと手で合図されたので近寄る添。能恵に聞こえないように明らかに意識しているのか、耳を顔に引き付けられた。
 しかしやはり女性的というか何と言うか。フェロモンなのだろうか、これが。
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