タレントアビリティ
「同性愛に始まり、殺人、自殺、政治風刺、主従、グロ、いじめ、腹黒さ。それらを全年齢対象に盛り込んで、数々のトラウマを読者に植え込んでたの。かなちゃんの内面は私も見たくない。とてもじゃないけれど、あれを二十代で書いてただなんて、信じられなかった」
「そんなに、ですか……」
「しばらくケチャップと焼肉が無理になったわよ、この私が」

 その言葉で分かった。赤羽要は化け物だ。
 数々の修羅場を能恵はくぐり抜けているはず。その中には海外の生々しいシーンだったり、当然人殺しだったりも含まれているはずだ。自分の知らないどこかで、能恵は真っ赤になっている。
 その能恵をそこまでする。信じられない。

「すぐに赤羽要はサークルからお払い箱。野良作家だった彼女を私はすぐに引き止めて、資金提供して彼女の作品を本にしたのよ。それが『人間の盛り合わせ』。5年前にありとあらゆる賞を総なめにした、史上最後の問題作」
「……あの作品の作者、だったんですか。確かペンネームは『赤場加奈』だった、はず」
「『人間の盛り合わせ』は赤羽出版を有名にした。でも、お抱え作家ゼロの赤羽出版だったから、私とかなちゃんはありとあらゆる同人作家を発掘して、デビューさせて、育てて、名作ばらまいて、そして今がある。その時、赤場加奈ともう1人、問題作家がいたのよ」
「それが、まさか……」
「あったりーっ。世界明洲はそーいう人なの。あ、何か食べない? お漬け物美味しいよ、この店」
「食欲ありません……」

 メニューを押し付ける能恵を断って、添はとある作品を思い返していた。赤場加奈の2作目だった「ラブラブステーキ」を、思い出したから無理だった。
 なるほど確かに能恵がノックアウトされるのも分かる。公に出版されてあれだから、同人時代なんて簡単に想像出来る。吐き気がした。
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