タレントアビリティ
 翌朝の京都市内某所に、添と能恵はいた。具体的には竜安寺の近く、けれど誰も寄り付かないようなそんな場所。
 荒れ果てた感じが酷いけれどどこかしっかりしたような、そんな崩れた平安住居。地図で示された場所と同じだった。

「京都っぽく例えるなら、源氏物語の末摘花の家のような?」
「そんな荒れ果ててましたっけ?」
「蓬生まで読んでないな~?」
「澪標までですよ。飽きたというかぐだぐだになったというか、明石の君が迷惑というか紫の上が可哀相というか……」
「澪標の後に蓬生はあるんだけど、その時に末摘花の後日談があるから、円地訳でも与謝野訳でもいいから、今度読んでね」
「暇があれば。で、ここがマジで世界明洲の家、ですか?」

 これ以上能恵のスイッチを入れないためにも添は話題を無理矢理戻した。あまりかじっていない本の話ほどつまらないというかだるいものは無いわけで。
 しかし改めて見てみると、確かに1000年前の寝殿造がそのまま風化したような、そんな雰囲気しかしなかった。ここに現代人が住んでいるとはとても思えない。それこそ鼻が赤いブサイクな、けれど一途な女性が出てきそうな、そんな気配が漂っていた。

「地図でもここだよ? 竜安寺から裏道回ってその場で呪文を唱えて鍵の掛かった扉を開けてゴブリン倒して経験値稼ぎながら来たじゃない?」
「……スルーしますね」
「やめてよぉ……。まあでも、ここでいいみたいね、ほら」

 涙目になりながらも門に掛けられた標札を見る。「せかいあけす」と平仮名で掛かれていて、赤羽出版のロゴもあった。間違いなかった。

「マジですか……」
「あはれ、とでも言い表すのかしらね、こういうのを」
「でしょうね。で、どこから入るんでしょうか……。入口これ? 絶対壊しますよ……」
< 198 / 235 >

この作品をシェア

pagetop