タレントアビリティ
 ボロボロの木の扉にそっと添が手を翳す。触ったら絶対壊れる。間違いなくそう思っていた。
 そしてその扉は期待を裏切るように、自動で横にスライドした。コンビニに入った時のような「いらっしゃいませ」のアナウンスのオマケ付き。添も能恵も、驚きを隠せない。

「信じられないっつーか裏切られたっつーか……。タイムスリップってすげぇ……」
「私もね、これにはびっくり、かも。ニャハハ、さっすがかなちゃんお抱えの人だわ……」
「平安住居に自動ドア……。世界明洲の原動力だ、これ」
「まー開いたならいいや。フツーにお邪魔しましょっ」

 自動ドアをさっさと潜る能恵に、添もついていく。背後で機械音がしたのは気のせいだろう。全てが気のせい。
 扉の向こうは中庭だった。池があり島があり、これはまさに寝殿造そのもの。ウグイスだとか平安貴族とかいそうなそんな風景。

「綺麗ね……」
「どこにいるんでしょうね、世界明洲」
「そーえ。今だけは平安チックにいきましょう? こーいうとき男性ってのは、そっと女性を覗くのよ? そして和歌を送るのよ」
「古典の授業でやりましたけど相手は男ですよ?」
「気にしないのーっ! さあ、覗け! あの、あー、名前なんだっけ? 大極殿? 寝殿造のメインの部分を!」
「……そこって主人しかいませんよね」
「こまけぇこたぁきにすんな! ナウでヤングな若者でしょ?」
「能恵さんいくつなんですか」
「21」
「分かりましたよもう……」

 暴走し始めた能恵を差し置いて手頃な屋敷を覗いてみる。荒れ果てた和室が視界に広がり、誰かと目が合った。ぐったりとした誰か。
 首から下が無かった。しかもいくつも、首だけがゴロゴロ。

「うわあああああっ!!」
「な、なになに! どしたのよそえっ!」
「くびっ! なまくびっ! あはれとか、をかしとか、そんなのどこ行った! おどろおどろし! いとおどろおどろし!」
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