タレントアビリティ
「何ですか添さんは……。サボりですか?」
「飯をどこで食べようったって個人の自由だと思う」
「屋上で1人?」
「自由だと。……青と白のストライプ」
確認して身体を起こす。サランラップを広げて風に乗せて、添は風音に尋ねた。先程の呟きは聞かれていない。
「自宅で練習しないんだ」
「え……っ、と」
「人に聞かれるの嫌だって言うわりには、そういえばそうだな」
ふと、思った事だ。
人に聞かれたくなければ、無難に自宅で練習すればいい。第一不特定多数の皆様がいる学校であんな演奏をして、耳を傾けない人のほうが珍しいだろう。それに自宅は音楽一家。防音も完備しているのではなかろうか。
風音は黙っていた。あぐらで座る添を見下ろしながら、冷めた視線をぶつけている。
「お父様と、お母様」
「うん?」
「2人とも厳しいんですよ。だから私は、ここで練習していたんですけどね……」
じろりと見られるものの、先程よりも余り痛みを感じなかった。威嚇のつもりだったのだろうが、しかしそれは余計に寂しさややる瀬なさの現れとして添に悟られている。
添は1つ溜め息。出会って2日だというのに、ここまで分かってしまう女性がいるだなんて思ってもいなかった。
「家で誉められないから、自信を無くしたわけか」
「……えっ?」
「もういい分かった。なんだ、やっぱり能恵さんの言葉通りか……。つまんね」
カレーの味の残る口のままで添は言い放つ。心の底からつまらない。結局純白能恵に任せればいい話だし、そもそも添自身が風音に深入りする必要もあまりない。
「あの、空白さん……?」
「ったく、俺は風音さんにごちゃごちゃ言われただけの被害者だったわけか。それともあれだな風音さん。誉められて素直になれなくて俺を怒鳴ってたんだけど、それは何なんだろうね」
「ちょっと、あの、私、何か、あなたを、怒らせ……」
「呆れただけ。じゃあな、風音さん。せっかくの才能はきちんと生かそうよ」
さっさと屋上を立ち去る添。よく分からない、けれど確実な怒りが、添の腹の奥にはあった。
そしてその怒りはやがて、ゆっくりと諦めに変わる。午後の授業中ずっとそれに苛まれていたのだが、その責任転嫁のはけ口を見つける事が、添には出来ない。そんな才能、あるわけないから。
「飯をどこで食べようったって個人の自由だと思う」
「屋上で1人?」
「自由だと。……青と白のストライプ」
確認して身体を起こす。サランラップを広げて風に乗せて、添は風音に尋ねた。先程の呟きは聞かれていない。
「自宅で練習しないんだ」
「え……っ、と」
「人に聞かれるの嫌だって言うわりには、そういえばそうだな」
ふと、思った事だ。
人に聞かれたくなければ、無難に自宅で練習すればいい。第一不特定多数の皆様がいる学校であんな演奏をして、耳を傾けない人のほうが珍しいだろう。それに自宅は音楽一家。防音も完備しているのではなかろうか。
風音は黙っていた。あぐらで座る添を見下ろしながら、冷めた視線をぶつけている。
「お父様と、お母様」
「うん?」
「2人とも厳しいんですよ。だから私は、ここで練習していたんですけどね……」
じろりと見られるものの、先程よりも余り痛みを感じなかった。威嚇のつもりだったのだろうが、しかしそれは余計に寂しさややる瀬なさの現れとして添に悟られている。
添は1つ溜め息。出会って2日だというのに、ここまで分かってしまう女性がいるだなんて思ってもいなかった。
「家で誉められないから、自信を無くしたわけか」
「……えっ?」
「もういい分かった。なんだ、やっぱり能恵さんの言葉通りか……。つまんね」
カレーの味の残る口のままで添は言い放つ。心の底からつまらない。結局純白能恵に任せればいい話だし、そもそも添自身が風音に深入りする必要もあまりない。
「あの、空白さん……?」
「ったく、俺は風音さんにごちゃごちゃ言われただけの被害者だったわけか。それともあれだな風音さん。誉められて素直になれなくて俺を怒鳴ってたんだけど、それは何なんだろうね」
「ちょっと、あの、私、何か、あなたを、怒らせ……」
「呆れただけ。じゃあな、風音さん。せっかくの才能はきちんと生かそうよ」
さっさと屋上を立ち去る添。よく分からない、けれど確実な怒りが、添の腹の奥にはあった。
そしてその怒りはやがて、ゆっくりと諦めに変わる。午後の授業中ずっとそれに苛まれていたのだが、その責任転嫁のはけ口を見つける事が、添には出来ない。そんな才能、あるわけないから。