タレントアビリティ
 思わず文語体になってしまった添を差し置いて能恵も覗く。小さな背中が震えるのが半分パニックになっている添でも分かった。
 振り返った能恵の顔がいつも以上に白い。まさか本物なのだろうか、あの生首は。

「そえ、うしろ……」

 能恵が指差す。ゆっくりとゆっくりと振り返ると、そこには人が立っていた。
 落ち武者のような不精髭を生やした、しかし無地のTシャツを着た、そんな人。無表情で、生きているとは思えない。

「ああ、あああ……っ!」
「動いちゃダメよ添。その位の男なら、私でも……」

 能恵が腰を落とし拳を構える。さすがにかなりの修羅場を潜っているだけはあり、緊急時の対処がバッチリだった。手にはいつの間にか小型ナイフ。
 男が動く。どこからかスケッチブックを取り出してさらさらと書いて、それを2人に見せた。綺麗で読みやすい字だった。

「はい?」
「かなちゃん、先に言いなさいよ……」

 添がどしゃりと座り込む。能恵もナイフをポケットに収納し、警戒心を解いて歩み寄った。やっぱり変人だった。

『僕に何か用ですか?』
「まさか、あんたが……。世界、明洲?」

 男は黙って、コクリと頷いた。素晴らしい作家ほど変人が多いと、改めて添は理解した。
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