タレントアビリティ
『ああ、赤羽さんの紹介ですか。それならそうと先に』
「驚きますって……。で、あなたが作家の、世界明洲さんですか?」

 コクリと頷いてさらさら。1秒もしないうちに大量に書き上げられたスケッチブックが、2人の前に置かれた。

『ああはい、世界明洲は僕ですよ。そちらがアタエさんであなたがソエさんですね。話なら赤羽さんから伺ってはいます』
「書くの速っ……」
『文字を書くスピードは速いんです。そうでもしなければ作家はやっていけません』
「あの、失礼ですが、フツーに会話はしませんのですか?」
『お断り』

 能恵の言葉にはそんな書きなぐられたスケッチブックが向けられた。普通に会話をするつもりは無く、スケッチブックがメインらしい。
 確かに部屋には大量の買い置きが積まれていて、そこら中に明洲の言葉がばらまかれていた。紙の海に沈んでいるようだった。

『僕は言葉は全て紙にぶつける主義です。なにもかもが作品になり、なにもかもが芸術になり』
「でもいくらなんでも、それはやり過ぎでしょうに」
『僕の流儀に口出しはやめて頂きたい。それは赤羽さんだろうが、その赤羽さんが尊敬するアタエさんだろうが、許しはしませんから』
「……ならいいわよ」
『すみませんワガママで』

 ぺこりと頭を軽く下げて、それから席を立つ明洲。茶箪笥から急須を取り出し、そばにあったポットからお湯を注ぎ、いきなりお茶を出し始めた。
 壁にはコンセントもあり蛍光灯もある。不便そうではあるが、一応暮らしていけるようではあった。

『赤羽さんの差し金でしょうが、お二方、僕をどれだけご存知でしょうか』
「あんまり知らないっていうのが本心よね。明洲さんの作品もかなちゃん通しくらいでしか読まないから」
『ですか。あの人が何を考えているのか、僕もよく分かりませんでして』
「それは私も一緒よー。あんなグロテスクな作品をよくぬけぬけと出版させたなーって、我ながら思ったけどねー。あ、明洲さんの作品に関しては、私よりこっちのほうが詳しいみたいで」
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