タレントアビリティ
 日曜に京都まで向かって、赤い奇妙な社長に品定めされてそのまま京都をふらついて、翌日出会った憧れの作家は言葉を話さない奇人で、そしてそのまま帰宅している。
 よくよく考えれば今日は月曜日であって、またまた学校をサボタージュというわけだ。進級関連でごちゃごちゃ言われそうな気がしないでもない。

「ニャハハ、そんなこといわないのーっ! せっかく明洲さんに会えたんだしぃ、もうちょい素直になりなさいってばー」
「嬉しいっちゃ嬉しいですけど……。イメージと違いすぎるというか……」
「作家さんってそーいうのあるのよ。顔出しした瞬間に本の売れ行きが上がったり下がったり。少女マンガを描く人がオッサンだったり、血肉沸き踊るバトルマンガを描く人がめちゃめちゃかわいい女の子だったりとか。『ああこういう人が描いてるんだー』ってゆーイメージを隠す事は大事だっていうのが、出版業界の大原則なのかもね」
「サイン会とかやったりしている作家さんもいますけどね」
「それはファンサービス」

 窓の外の景色はあっという間に流れていく。目的の駅まで、あとどれくらいだろうか。

「だからねー、そえも明洲さんの作品に対するイメージ変わっちゃったと思うよ? 前みたいに作品そのものを楽しむんじゃなくてさー、ああいう人が描いてるんだなーみたいな。そんなバックステージまで絶対思わなきゃいけなくなる」
「ですかね?」
「一世を風靡した萌え系マンガの作者が熊みたいな人だった、みたいな事なのよ。だから作家の匿名性は大事だし、一般人が出版社の奥深くまで踏み入る事は出来ないんだよねー。あとまあ、新聞社もかな?」
「……じゃあ何で要さんは、俺みたいな一般人を呼んだんでしょうかね」

 株式会社・赤羽出版。どう考えても大手企業であり、能恵の言葉のように一般人は奥深くまで踏み込めない。
 しかし添は一般人であり、しかも作家とは無縁の無縁でただの本好き。能恵の後押しがあったからということもあるだろうけど、だからといってその掟を破るような事はしないだろう。あの社長なら特に。
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