タレントアビリティ
「なあ空白?」
「……うん?」
「お前アレ読んでるよな、あの……『ウインドノベル』」
「読んでるけど」

 その週の半ばの事だった。相変わらず机で読書な添のところに、ふと万がいきなり来た。手にはウインドノベルの最新号。
 その最新号の最初のページ、新人賞応募要項の部分に、でかでかと意外な文字があった。添は思わず本を閉じる。

「次世代明洲募集……?」
「そのまんまだろ。世界明洲の名前を襲名させる、って話だ」
「いやいや……。これってマジ、だな」
「世界明洲なら俺も知ってるさ。あの人のマンガとかは面白いしよ、ムラがあって色々楽しめる。しかしまさか後釜募集? ありえない話だろ。なぁ?」
「……今までの世界明洲に何かあったのか?」
「知らねーよ。ったく、赤羽も無茶苦茶な事やるじゃねーか……。看板作家の後釜募集って、冷静に考えたら存続の危機じゃねーの?」

 カラーページを指でなぞりながら真剣そうに言う万。しかし万の言葉はもう耳に届いていなかった。頭の中ではつい最近会ったばかりの彼と彼女を反芻していて、ひやりと汗を垂らした。
 つい最近会ったばかりの自分がもしかしたら明洲に何かしらの影響を与えていたとしたら、どうだろうか。

「空白?」
「ん、ああ、何でもない」
「……ホントかぁ? まさかこれにも能恵さんが関わってるとか、あるんじゃねーの?」
「どうだろうな」
「……隠すなよ、空白」
「何を隠すんだよ。能恵さんが出版業界にまで、しかも赤羽出版にまで、絡んでるって本気で思うか?」
「それはそうだろうけどさ、俺とお前の周辺に起こるトラブルっつーのは、ほとんどが能恵さん絡みだろうがってんだ」
「まだ2件だろ……」
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