タレントアビリティ
ららら~らら~
哀しいメロディが静かな放課後の校舎に響く。ちょっとだけ茜色の混じり始めたグラウンドから、添は屋上を見上げていた。
歌っているのは拍律風音。胸に両手を当てて、金の髪を風にたなびかせて哀しいメロディを奏でては並べる。
「よお、空白」
「……万」
「ハン、歌姫の歌声は、今日はやたらと寂しげじゃねーか」
「そうだな」
よろず、という1人のクラスメートがそう言って校舎を見上げる。ただの一瞬を見上げて、吐き捨てたように笑う。
「歌姫が歌えば誰もが振り向く、ってか? 知ったこっちゃねぇよ、んなもん。つーか俺は振り向かねぇな、あんな下手な歌」
「下手か?」
「下手って言わなきゃ後々厄介だとよ……。おお、転調したな」
「帰るのか?」
「おうよ。じゃな、空白」
イ短調がホ短調へ。変わらぬ哀しいメロディに、隣で万が背を向けて歩き出した。添のクラスメートで、うさん臭い嫌われ者。
けれど添は、彼の雰囲気が好きだった。どこか孤独を愛する姿は、屋上の自分に重なる。
「歌姫、か」
何を哀しんで歌っているのかの理由を知っているのは添だけだった。
けれど添は何も出来ない。何かしたくてもする才能が無いし、そもそもあれは赤の他人。
「いや、音姫?」
どうでもいい呟きを残して添は振り返る。屋上の歌声はもう一度転調。ホ短調から、イ短調へ。
哀しいメロディが静かな放課後の校舎に響く。ちょっとだけ茜色の混じり始めたグラウンドから、添は屋上を見上げていた。
歌っているのは拍律風音。胸に両手を当てて、金の髪を風にたなびかせて哀しいメロディを奏でては並べる。
「よお、空白」
「……万」
「ハン、歌姫の歌声は、今日はやたらと寂しげじゃねーか」
「そうだな」
よろず、という1人のクラスメートがそう言って校舎を見上げる。ただの一瞬を見上げて、吐き捨てたように笑う。
「歌姫が歌えば誰もが振り向く、ってか? 知ったこっちゃねぇよ、んなもん。つーか俺は振り向かねぇな、あんな下手な歌」
「下手か?」
「下手って言わなきゃ後々厄介だとよ……。おお、転調したな」
「帰るのか?」
「おうよ。じゃな、空白」
イ短調がホ短調へ。変わらぬ哀しいメロディに、隣で万が背を向けて歩き出した。添のクラスメートで、うさん臭い嫌われ者。
けれど添は、彼の雰囲気が好きだった。どこか孤独を愛する姿は、屋上の自分に重なる。
「歌姫、か」
何を哀しんで歌っているのかの理由を知っているのは添だけだった。
けれど添は何も出来ない。何かしたくてもする才能が無いし、そもそもあれは赤の他人。
「いや、音姫?」
どうでもいい呟きを残して添は振り返る。屋上の歌声はもう一度転調。ホ短調から、イ短調へ。