タレントアビリティ
「き、君は何だね!」
「ああそんな血走る必要は無いよ世界史教師。しかし歴史とはストーリーだ。教科書を読むだけではなくて、もうちょっと物語性を表に出す授業をしなくてはいけないんじゃないかな? それでベテラン教師というのなら、よっぽど教育レベルが低いんだろうな」

 毒まみれになった世界史教師の足元にトンカチを投げ捨てて、それからぐるりと教室を見渡す。長身の要がそうする姿は美しかったが、明らかに不審者。
 足元の添を見つけると表情が一変した。舌打ちを1つ。そしてずんずんと世界史教師へと迫り、ネクタイを引っ張って高圧的に頼み込んだ。

「悪いがあの生徒を貸して頂きたい」
「君は何者なんだね!」
「しがない物書きだ。君は不合格だ世界史教師。あの生徒は借りていくが、誘拐と誤解しないように頼みたい」

 ネクタイを引きちぎって投げ捨てて、そのまま添の首を掴んで窓際に引きずっていく。ガラスの無い床を選ぶというささやかな配慮の後、近場の窓を開けた。サッシに右足を乗せて振り返る。
 ここは確か4階で高さは10メートル以上はあって、下は確かアスファルトの駐車場で、飛び降りたら間違いなく怪我か即死。

「失礼したね。それでは低俗な授業を楽しめばいいよ生徒さん。しかしまあ僕としては、出来れば本を読んでいただきたいんだが」

 それだけ吐き捨ててぐいっと首を引っ張る要。10メートルの自然落下に、何も躊躇いも無かった。
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