タレントアビリティ
「郵便でーす」

 次の週の木曜日、添は学校を休んでいた。ただこの声が聞きたいという一心で、近くにある体育祭も無視して、能恵にはうまくごまかしを入れて、とにかく休んでいた。
 だから配達員のそんな声でさえも女神の声に思えたし、渡された封筒に「株式会社・赤羽出版」とプリントされていただけでも幸せだった。

 しかし、1つ疑問。

「えーっと、空白さんと、純白さんに」
「……2つ?」
「はいはい2つですね。赤羽出版からそれぞれに。では、ありがとうございました」
「ああはい……、こちらこそ……」

 能恵宛にも同じ封筒が届いている事が疑問で、しかしその疑問はすぐさま仮定へと導かれる。
 だから猛ダッシュで家に戻ってドアを開けて、リビングでお昼の恒例番組を楽しげに眺めている能恵に、静かにはっきり問い詰めた。

「あー惜しい! 2人かっ!」
「能恵さーん」
「あ、なーに? お昼ご飯はテレフォン終わってからでいーでしょ?」
「赤羽出版から」
「にゃ?」

 赤い封筒をちゃぶ台の上に乗せると、能恵の表情がギラリと変わった。やや緊張した面持ちでそれを手に取る。

「来たか……」
「何ですかそれ?」
「ウインドノベルの公募。明洲賞、出したのよ」
「……やっぱり」
「やっぱり?」

 能恵はやはり添の言葉を見逃さなかった。そんな言葉に疑問を抱く能恵に、添は背中に隠していた赤い封筒を見せる。
 赤い封筒に貼られていた白いシールには、「空白添様」と無機質に書かれている。明洲賞からの封筒であることは、明らかだった。
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