タレントアビリティ
「……にゃはっ」
「俺にだってそういう願望はある」
「へーっ、意外だなーそえがにゃーっ。ねーっ、何も無い何も無いって散々自虐自負してきたそえ君がねーっ。まさか自分から才能の渦に飛び込んで行こうだなんてねーっ」
「悪いかよ……。ってか能恵さんが出してるってなら、こりゃ厳しいな……」
「応募総数1万4600。原稿用紙30枚以内で書くだけ書いて、大賞はデビューの可能性がありあり。まったく、かなちゃんは何を企んでるのやら……。ま、全部読んだんだろーけど」

 やはり期待通りのリアクションをしてくれた能恵に、添はどこか自分が緊張しているのが分かった。
 それは賞の結果がどうこうとかではなくて、ただ単に能恵がどういうリアクションを見せるのかについて。空っぽで何も無いと自負する添が見せた行動に、彼女がどういうリアクションをするのかが怖かった。

「分かってる?」
「大賞、つまり金賞が1人。銀賞が2人、銅賞が20人、特別評価枠が未知数人。審査員は要さんと明洲さんで、書いた人の名前は一切審査員に開示されない」
「詳しいじゃない、そえ」
「そりゃ自分が投稿する賞なんだから、念入りに調べますけどね……。さて……」
「ニャハハ、開ける?」

 能恵がどこからか取り出したカッターナイフを添に渡す。彼女は自分の小さなナイフでさっさと封筒を開けようとしていた。
 添もそれを尻目に封筒に刃を滑らせる。手が震えてうまく切れない。緊張し過ぎだろうか。
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