タレントアビリティ
「そえ」
「……何ですか。大賞ですか」
「まだ見てないわよ。あのね、私、嬉しい」
「何がですか」
「そえがそうやって、自分で何かに目覚めていく事が、自分の才能の可能性に少しでもすがろうとするのが、私はすごく嬉しい」
「能恵さん……」
「だからね、嬉しいの。さ、見て?」

 封筒の中の無機質な紙を見る。1番上に印刷されているネーミングセンスのかけらも無い自分のペンネームに苦笑して、目線を下に落とす。
 向かい側では能恵も同様に、白い紙に目を滑らせていた。ニヤニヤと笑う表情からは何も読み取れないのだけれど、結果というものは……。

「そーえ」
「はい?」
「どーだった、の?」

 テレビではゲストがお友達に電話していた。グラサンの人に子機を渡して、「いいともー」とか言っている。

「なんか、あの……」
「私は銀賞だったよ? ……悔しいけど」
「能恵さんと、同じ……」

 ピラリと紙を能恵に向ける。能恵も添に紙を向けた。お互いにはお互いに同じものを見ていて、その結果に驚いているだろう。
 添の持つ紙は震えていた。緊張からか興奮からか、とにかくよく分からない、だけど込み上げる感情が、添をそうしていた。

「……すごい」
「ですね」
「すごいじゃない!! えっ、いやっ、そえすごいよ!! 初めてだったのに、すごいっ!! えらいっ!!」

 ちゃぶ台を飛び越えて能恵が抱き着いて来た。すべすべした頬ですりすり。ふわりと柔らかい香りが鼻孔を突く。
 しかしそんな香りも能恵の声も、添にとってはどうでもいい。今は現実とは思えない確かな現実と、喜んでくれている真っ白な同居人と、喜んでいる自分がただ嬉しくて。

「やった……」

 銀賞受賞のお知らせの紙が、2枚ちゃぶ台に鎮座していた。
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