タレントアビリティ
「……金賞は該当無し、か」
「ニャハハハ、じゃー私とそえが同率1位じゃん」
「ですね」
「うーん、でもまた何でまあ金賞該当無しなんだろ。かなちゃんならそーいうの嫌いだし、やっぱり明洲さんかな……」
「今何も話せないんじゃ無いんですか?」
「それとこれとは別物だったりしてね。それかまあ、私の作品が過激過ぎたからかな? そしたらそえのが金賞だろうけどねぇ」
「何を書いたんですか?」
「なーいしょっ。タイトルだけなら分かるだろうけど」

 その日の夜、赤羽出版の特設サイトを眺めながら2人は話していた。マウスを握る添の背中に能恵がのしかかって、肩越しに画面を見ている。
 やはり能恵は軽くて、背中に当てられている胸にはほとんど膨らみを感じない。幼児体型だと言ったら怒るだろうから、何があっても言わない。
 だからこそこの体制が能恵は好きだった。だから添は拒まない。拒むつもりは無い。

「ペンネームは?」
「野口はじめ」
「……また何でそんな」
「『白』って漢字をばらばらにしたら、『ノ』と『口』と『一』になって、『一』ってはじめって読むから、野口はじめ」
「やっぱ色々考えてるんですね。俺なんてテキトーに『隣無色』ですから。ま、気に入ってますし、ハンドルネームをアレンジしただけです。『隣の無色』ってのを」
「個性的ね。で、銅賞以下はこんな感じで、特別枠は該当無し。ますます分からないわ……」
「要さんですか?」

 ブラウザを閉じながら能恵に聞いた。背中から離れた彼女はくるくる回りながら冷蔵庫へ向かい、コンビニで買ったアイスを2つ持って来る。
 バニラ味を添に渡して座りながら能恵は言う。スプーンを弄ぶ指使いもテクニシャン。

「そーなのよね、あれから連絡無いし。こういうコンペがあるときは、かなちゃん喜んで電話するんだよ? こんな作品が来た。こんな作家を見つけた、って」
「……本当に仲がいいんですね」
「うん、かなちゃんは大事な友達だもん。だからね、そえもよろず君と、もうちょい仲良くすればいいんだよ」
「何で万がここで出て来るんですか」
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