タレントアビリティ
「さーね?」

 そう言いながら抹茶味のアイスを食べる能恵。自分がどんな表情をしているのか、添には分からなかった。けれど。

「能恵さん」
「うーん?」
「本当は、悔しくて悔しくてしょうがないんじゃないですか?」

 能恵の手が止まった。アイスを口に運ぼうとしたままぴたりと止まって、添をじっと見ている。
 添から見た能恵の瞳は、微かだけど揺れていた。見間違いなのかもしれないけれど、でもそれが本当にそう見えて、だから。

「だってあなたが、ナンバーツー止まりって、悔しいはず、ない……」
「漫画家、小説家、イラストレーター。たくさんの同人作家がそれを目指して、今日も机にかじりついてる。彼らはいつだって本気で、自分の世界を認めてほしくて、ひたすら沸き立つインスピレーションを、紙にぶつけているの」
「……いきなり何を」
「コミケに行けばたくさんいるわ。面白いか面白くないか分からないような作品を、あたかも自分の全てであるかのように売り払う人達が。私は彼らを、尊敬している。自分の全てでこの世界にぶつかろうとして、たとえそれが世界に認められなくたって、それでもひたすらに書いて描いて書いて描いて。だからね、そえ」

 スプーンを口に入れて抹茶アイスを飲み込む能恵。無表情に、だけど温かい何かを浮かべて、能恵は言った。

「結果なんてどうでもいい。『物書きになりたい』って夢を叶えるために書くんじゃなくて、『何かを書きたい』がために、かなちゃん達はプロになった、なれたの。私は今回の結果、確かに悔しいけど、そんなには思わないの。書きたいだけ書いたから、そうね、野口はじめも喜んでいるわ」
「……俺にはよく分かりませんよ。認められたら嬉しいし、認められなかったら悔しいし。今回は認められたからいいけど、落選とかだったら、やっぱ悔しいです」
「そりゃそーよ! でも、普通のテストとかとは違う世界なんだよ、これはさ。努力でどうにかなるって次元じゃないから、うん、そういうこと」
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