タレントアビリティ
 能恵の言うことはよく分からなかった。自分の不甲斐無さを嘆いているようには思えないのが事実だし、かといって楽観的に見ているわけでもない。
 そのままを受け止めている。そうとしか思えなくて、だから添は、それが寂しいし分からない。

「やっぱり、違うか……」
「ふえっ?」
「何でもないですよ。授賞式、土曜日でしたっけ?」
「うん。まだかなちゃんはどんな人が受賞したのか分かってないから、すごい顔するかもよ?」
「でしょうね……」
「ニャハハ、今から楽しみーっ!」

 いい笑顔でアイスを運ぶ能恵はやはり遠い。ちゃぶ台の直径程度の距離にあるのに、先程までは肌と肌が触れ合っていたのに、とてつもなく途方も無く、遠い。
 一瞬でも近づいたと思った自分はどこに行ったのだろうか。受賞の喜びをアイスと一緒に噛み締めると、わずかに歯にしみた。
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