タレントアビリティ
「おおっ、それすげえじゃん。歌姫の電話番号……。ファンに売ればかなりの金にはなるな。おい空白ぅ、さっきのメモ紙どこやった?」
「教えません」

 文句を言う万を無視して座る添。一瞬だけ聞こえたさっきの電話の声を思い出す。

「泣いてた、のかな」
「んー? つーかおい、空白。お前ホントに何かしたんじゃねーのか? 記憶にねーの?」
「……だから、誉めただけだって」
「それはマイナス要素にしか働かないはずだろ? お前の言葉や行動のうちで何かしらが間違いなく、歌姫の心を強く引き寄せたんだと思うけど?」
「そうか?」
「ああ間違いない。孤独な人間がある人に引き付けられる理由ってのは、その人の言葉や行動。その上その言葉や行動ってのが、無意識的に行われてるもんだから面倒なんだなぁ」
「無意識的に引き付ける言葉……。何か言ったっけ、俺?」
「知らないっての。んー、何なら思い出してみれば?」

 万のそんな言葉に促され、ぼんやりと今日のやり取りを思い出す。
 朝に能恵と話して、風音の噂をしていたと風音本人に言われ、ビンタ一発。
 そして昼休みの屋上で、風音が学校で練習するわけと、誉められる事を毛嫌いする理由が何と無く分かって……。それを添は、冷たく突き放した。
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