タレントアビリティ
「あれだ」
「ほら、やっぱあるじゃん」
「風音さんとこのお父さんとお母さん、めっちゃ厳しいから日頃誉められなくて、だから学校で練習してて。それを俺が悟って、呆れてちょっと酷いこと言った」
「ふーん、それだね。じゃあ空白。次のステップは、歌姫に優しい言葉を投げ掛けてやることだろな」

 万がにやけながら言う。添が首をかしげると、追い撃ちのように続けた。

「なに、簡単じゃん。一度冷たくなっちまった人間が甘々になってカムバックしてきたらぁ、そりゃずっきゅん」
「おい万。それを世間一般では、ツンデレって言うんじゃ……」
「違うような違わないようなだけれど、お前がデレるかデレないかは、さっきの電話の受け答えで判断すればいいっしょ」
「デレるしかないんですけどー?」
「うわ、マジ? ったく、英才教育ってのはかったるいねぇ……。娘や息子の気持ちを考えてるのか? 教育ママさんってのは」
「知らん」

 万との会話を行いながらも、頭の中では風音の事を考えている。音楽の才能に長けた彼女は、しかし歪んだ自我を持つ。
 添は思う。才能があるのは羨ましいけれどその才能の為に苦しんで貰うのは、例え風音が赤の他人だとしてもお断りだ。才能に苦しむ理由なんて、無い。

 才能が無くて苦しんでいる人間がここにいるのに、その悩みは多少贅沢過ぎる。
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