タレントアビリティ
 万が帰ると言い出したので、形だけでも見送る事にした。

「邪魔したな」
「ホントにな」
「能恵さん、いつ頃?」
「さあ?」

 やたらと大きな靴を履いて扉に手をかける万。万がドアノブを開く前に、添は何故か呼び止めてしまった。

「どした?」

 返事の後に後悔。聞くべきか聞かないべきか迷うものの、万と添の間柄、選択肢を選ぶのはあまりに簡単だった。

「別に」
「……あっそ。んじゃ、また明日な」

 扉が開いて、閉まる。無機質なアパートの扉をしばらく見つめ鍵をロック。質問に関しても、しっかりロック。こればかりは聞かないほうが、いいかもしれない、

「才能に溺れてるよな、風音さんも」

 そしてお前も。
 尋ねなくてよかったなと決着して廊下の電気を切る。風音には明日話そうかと、とりあえず決めて終わった。

 やはり何も進展しない。添の才能で、才能人の人生を進展させるだなんて厳しいけれど。

「分かってる」

 そこまで考える才能はあるが、そんな才能を才能とは呼ばない。添はそれを知っていた。
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