タレントアビリティ
「………………」

 綺麗過ぎた。音楽を人並みにしか分からない添でも、この演奏のレベルは桁違いだと分かった。しっとりした音色と、それでも上下する音程。フェンスから背を離して、華奢な身体を大胆に揺らして、夕焼けをバックに音を紡ぐ少女。
 添はもう、見入っていた。身を隠すとかこっそりとかそんな言葉はメロディーに流れて消えて、ただただ見入っていた。聴き入っていた。身体が震える。

「すげ……」

 まさに才能。才能の枠を越えた才能を添は垣間見た。こんなの自分が憧れていて諦めている才能の1つではない。次元が違う。レベルが違う。そんな事を一瞬考えても、メロディーに乗って消えた。
 更に歌が入る。前奏だけだったのに、その歌は添の思考を止めてしまった。そして声を上げる。ついつい。

「はぁ!?」

 高い男声、低い男声、で歌う高い女声、低い女声。カルテットで歌う女子生徒は、しかしバイオリンを止めない。伴奏に合わせてラテン語らしい歌を歌う。添は身を乗り出してそれを聞いていた。

 ぴたり、と歌が止む。添と女子生徒の目線が、ぴたりとあった。

「……あ」

 バイオリンを構えたまま停止して、口をぽかんと開けている。風が屋上を吹き抜け、金の髪がふわりと揺れた。

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