タレントアビリティ
「はい、拍律風音は私です。一応あなたと同じ、2年生ですけど……。何で話した事も無いあなたが、私のフルネームをご存知なんでしょう?」
「そりゃ知ってるでしょ。拍律さん、綺麗だし音楽上手いし」
「……下手ですってば。第一いったい何で、私はあなたとこうして屋上で話しているんでしょうか?」
「成り行き?」
バイオリンケースを足元に、添と風音はフェンスに背中をもたせ掛けていた。風が吹く度にふわりと揺れる風音の髪から、心なしかいい香りがしたのは添の気のせいでは決してないとする。
「まあ俺はほら、さっきも言った通り寝過ごしたってこと。昼メシはいつもここで食うから、そのあと寝ちゃったわけさ」
「……屋上の鍵は、学校が管理しているはずですけど」
「合鍵あるんだなこれが。まあどっちにしろ悪意があって覗いた訳じゃないし、下手だとも思ってはいない。そこは誤解しないでほしい」
「そうですか……」
疑うような目線を向ける風音。いったい何故そんな風に疑い深いのかが分からない。実際先程の演奏もよかったのにと思う。
「さっきの歌、凄かったよ」
「……本当にそう、思ってます? 私に気を遣って、そんな事言っているんじゃないんですか?」
「いやいや、そんな事ない。さっきのは上手かった。もう1回聞きたいくらい」
「嫌ですよ……。あんな歌、人前で披露出来るものなんかじゃありません」
「そんな事ないって」
「違います。本当に自信が無くて、だから嫌なんです」
「でも実際、噂は流れてるじゃん」
「……それも、嫌です。噂だけが独り歩き、私の歌は悲惨で騒音でそんな皆さんが評価するほどに素晴らしいほどじゃ無いんです」
どこまでも卑屈だった。美形でスタイルもいいのに、拍律風音はどこまでも自信を持たない。
実際風音の演奏は、そんな卑屈になるようなものなんかではない。それ以前に添の通う学校では、れっきとした噂がある。
「放課後の歌姫」
「……はい?」
「それきっと、拍律さんの事だと思う」
「そんな噂……」
「あるんだよね実際。放課後残ってたら屋上から綺麗な声が聞こえてきたり、バリトンの低い歌だったり。なるほどそれは、拍律さんの事か」
「そりゃ知ってるでしょ。拍律さん、綺麗だし音楽上手いし」
「……下手ですってば。第一いったい何で、私はあなたとこうして屋上で話しているんでしょうか?」
「成り行き?」
バイオリンケースを足元に、添と風音はフェンスに背中をもたせ掛けていた。風が吹く度にふわりと揺れる風音の髪から、心なしかいい香りがしたのは添の気のせいでは決してないとする。
「まあ俺はほら、さっきも言った通り寝過ごしたってこと。昼メシはいつもここで食うから、そのあと寝ちゃったわけさ」
「……屋上の鍵は、学校が管理しているはずですけど」
「合鍵あるんだなこれが。まあどっちにしろ悪意があって覗いた訳じゃないし、下手だとも思ってはいない。そこは誤解しないでほしい」
「そうですか……」
疑うような目線を向ける風音。いったい何故そんな風に疑い深いのかが分からない。実際先程の演奏もよかったのにと思う。
「さっきの歌、凄かったよ」
「……本当にそう、思ってます? 私に気を遣って、そんな事言っているんじゃないんですか?」
「いやいや、そんな事ない。さっきのは上手かった。もう1回聞きたいくらい」
「嫌ですよ……。あんな歌、人前で披露出来るものなんかじゃありません」
「そんな事ないって」
「違います。本当に自信が無くて、だから嫌なんです」
「でも実際、噂は流れてるじゃん」
「……それも、嫌です。噂だけが独り歩き、私の歌は悲惨で騒音でそんな皆さんが評価するほどに素晴らしいほどじゃ無いんです」
どこまでも卑屈だった。美形でスタイルもいいのに、拍律風音はどこまでも自信を持たない。
実際風音の演奏は、そんな卑屈になるようなものなんかではない。それ以前に添の通う学校では、れっきとした噂がある。
「放課後の歌姫」
「……はい?」
「それきっと、拍律さんの事だと思う」
「そんな噂……」
「あるんだよね実際。放課後残ってたら屋上から綺麗な声が聞こえてきたり、バリトンの低い歌だったり。なるほどそれは、拍律さんの事か」