タレントアビリティ
 そんな声に振り返ると、やっぱり案の定というか予想通りというか、万がニヤニヤした笑みで立っていた。視線は添に3割、風音に7割。そりゃあスケスケなら絶対見る。

「ああ、やっぱりお前が来るか、万」
「なんかスゲー事になってるよな、コレ。ったく、本気でプール爆破しやがって……。男子のための目の保養ポジションを消すんじゃねーっての」
「今、あるよな?」
「……あるよな」

 ちらりちらりと風音を見ながら2人で顔を合わせる。当の本人は先程の爆発で思考停止状態になっていて、ただぽかんとするばかり。
 それを尻目にひそひそ話。風音のスケスケは保存しておくとして、添は尋ねた。

「あーっと、空白。俺はテロリストか何かに、グラウンドに行けとか言われて来たんだが。テロリストの正体って……、能恵さん?」
「……だな、間違いない」
「アクションって、これか?」
「かもな」
「無茶苦茶じゃねーか……。もはや犯罪者だろ能恵さん。ま、要求は飲まなきゃリアルに命がやばいからな」
「それ、本当ですか?」

 男2人のトークに割って入るのは風音。シークレットな話をしていたために、2人は。特に万は驚きを隠せない。
 そんな万をフォローするは添。今回の万の立場は「白羽の矢」ではない。「共犯者」という表現が、どうしようもなく正しいのだ。

「あー、本当みたいだ。なあ万、犯人からの要望とか、無いのか?」
「お前ら2人を案内」
「どこに?」
「音楽室」

 どうしようもなく、正しかった。風音の顔が微かに引き攣る。びしょびしょになったバイオリンケースが、鈍く光を反射していた。
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