タレントアビリティ
『えー、全生徒全職員に告ぐ! 目的は達成した! だからあなたたちは、用済み!!』

 音楽室に持ち込んだパソコンから接続されたマイクにノリノリで吹き込んでいるのは、やはり才能の塊だった。

『警察呼ぶなり授業再開するなりご自由に! ただ、こちらの手元には3人いるって事をお忘れなく!』

 ぶつん、とスイッチを切ってケーブルを引っこ抜く。そして白い髪を流したままに振り返ってピアノの上に腰掛けた才能の塊は、順序よく3人を見た。

「ふぅん……。寿岳万、空白添、拍律風音……。ま、いっかな。よし、万……、だっけ? あんた解放」
「え……?」
「いいからさっさとここから出て、勉学に励んで下さい。あと、この2人の身柄は拘束したと担任の先生に告げて下さい」

 そしてさらさらとそれだけを述べて、興味の無さそうな瞳で万を見た。その視線に耐えられなくなり、万は教室を後にする。俯いた表情の裏には確実に、いい笑顔があったであろう。
 犯人が添と風音を見る。幼い雰囲気に白いワンピース。黒いピアノに座ってぶらぶらさせる足もまた白い。

「私の名前は、純白能恵といいます。平和な学園ライフを妨害して、かつプールを爆発して性欲の昇華場所を略奪した事は、申し訳ないなーって思ってまーす」
「絶対嘘だ……」
「黙れ凡人っ!」

 ぴしゃりと言い切る能恵。日頃とのギャップはなかなかのもので、これがいわゆる「仕事人」という存在の正体なのだろう。目の色が違う。
 能恵はピアノから飛び降りて、ぴょんぴょん跳ねて風音の正面に立った。遥かに低い身長に添は笑いを堪える。

「んで、拍律風音は、あなたかしら?」
「はい……」
「むー、やっぱりイメージ通りっていうかねぇ、なんか物足りないみたいね。あの人にあってあなたに足りないものってのを、私は感じる」
「あの人?」
「響さん」

 風音の纏うオーラが一変した。焦りと苛立ちと負の感情を一斉に溢れ出すような、そんなオーラ。
 それに当然のように動じないのが能恵だった。細い脚を羨ましそうに見ながら能恵は続ける。
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