タレントアビリティ
「拍律響。あなたのお父さん、だってね?」
「……また、お父様繋がりですか」
「そうね。第一あなたを狙ったのも、響さん関係。似てるわよねあなたたち。音楽に対して素直にならないところがさ、どこか似てるのよ。劣化だけど」
「れっ……!」
「まああの人はどこか悟ったところあるから、その境地に行けだなんて私は言わないけど。でもさあ、こんな凡人に無理矢理奪われるのもどうかと思うけどね?」

 添をジト目で見遣ってから言葉を着る。それからピアノの近くに置いていた白いバッグから取り出したものを、風音の指に向けた。

「指は音楽家にとって命よね? 2、3本吹き飛んだら、それだけで生命は終わるよね?」
「ちょっ……、いい加減にしろ……」
「黙りなさい?」

 向けたものをすぐさま添に向けて、何の躊躇いもなく引き金を引く。放たれた銃弾は添の首筋をかすめ、背後の黒板を砕いた。
 添は同じない。能恵の才能にしてみれば何が起ころうとも何かが起こる。それを隣で見ていたのは他でもない添。首から流れる血を無視して、ただ黙っていた。

「いっ……!」
「悲鳴上げたら撃つ」
「風音さん。俺は大丈夫だから、刺激、しないで」

 瞳孔をきゅうっと収縮させてコクコクと頷くだけの風音。能恵の冷たい瞳がただ、その様子を見ていた。
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