タレントアビリティ
 自分に対してああやって怒鳴る人を、添は久しぶりに見た。そんな事に気付いた帰り道。

「……能恵さんは、怒らないからなぁ」

 軽いかばんを振りながら歩く。部活も委員会も無いただの帰宅部が帰り着く先はちょっとしたアパート。2階の1番奥の扉の鍵は、今日は珍しく開いていた。

「おかえりー、そえー」
「ただいま。珍しいね、こんな時間にいるなんて」

 ふわふわとしたお茶菓子みたいな声が聞こえる。短い廊下を歩いた先に、添の同居人はいた。

「仕事は?」
「特に無いみたいかも」

 白い髪を三編みにして畳に転がっている添の同居人、能恵。白いワンピースを着た彼女は、転がりながら本を読んでいた。
 純白 能恵。すみしろ あたえ。添と同居する天才は、何を考えているのかよく分からない。
 それ以前に彼女について、添もよく知らなかった。ただ成り行きで1つ屋根の下に住み、そして様々な才能を見せ付けられては添を凹ませる。本人にそんな自覚があるだなんて、思えない。

「遅かったねぇ?」
「いやそんな事無いでしょ」
「ううん。平均的な帰宅時間より今日は14分遅いよ? 多分また屋上で寝てたりしたんだろうけどね、ちゃんと授業には出てくださいな」
「……うぐっ」
「にゃはははは、図星だー」

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