タレントアビリティ
「そーえっ」
「……何ですか」
「凄かったね、あの演奏」
「ですね」

 お昼時のファミレス。能恵と添が向かい合って席についていた。ご飯作るの面倒だからと言って入ったファミレスは、「安い、早い、旨い」がコンセプト。
 注文したものが並ぶ。能恵の前にはネギトロ丼。添の前には塩サバ定食。安いのに旨いというのがファミレスである。

「てゆーか能恵さん」
「ふむ?」
「……わざわざあんな大袈裟にする必要ってあったんですか?」
「んまい」
「返事してください」
「はいはい。結論から言うとね、私にもよく分からない」
「はあ!? じゃー能恵さんはわざわざ俺達の学校のプール爆破した意味って、無いの!?」
「ううん、多分ある」
「どっちだよ……」

 塩サバを解体しながらうなだれる。無茶苦茶で常識はずれな純白能恵の考えは、無茶苦茶を越えた無茶苦茶で常識から常識を外れた常識にある。
 上機嫌でネギトロ丼のどんぶりを傾ける能恵。どんぶりを外すとやはり頬にご飯粒が付いていた。これもある種の才能。

「風音ちゃんには、やっぱり響さんの前で演奏してほしかったのよ」
「いやそりゃ分かりますけど。なんなら他のシチュエーションでもよかったんじゃ……」
「学校の音楽室である必要もあったのよ。なんで私がわざわざ『学校』を選んだでしょーか?」

 ご飯粒を指で取って口に入れながら尋ねる能恵。添はしかし、そんな彼女の質問に即答出来た。
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