タレントアビリティ
「否定しなさいよ!」
「いやあ、無理が……」

 逆ギレされた。
 添はそれを華麗に受け流し、とりあえず気になる事をいくつか尋ねてみようかと思い立った。このまま終わって万々歳というはずがないだろう。後処理とか色々大変なのは間違いない。

「能恵さん」
「あ?」
「怖っ……。あの、後処理は、どうするんですか? プール破壊しましたし、警察沙汰になりますよね、間違いなく……」
「あらあら、そんなに私が心配? 大丈夫よぉ。それを放置しているようじゃ、今頃私はどこかの国のギロチンで首から下がさよーならー。になってるから」

 どうやらかなり法を無視しているらしい。まあ彼女の事だからどうせそんな事だと思ったが。
 今回の件でもかなりの罪を重ねている。器物損害、誘拐、銃刀法違反、エトセトラエトセトラ……。それらを大丈夫だと言ってのける能恵。
 才能を越えている才能の持ち主が、目の前でネギトロ丼を食べている。添にとっては当たり前で、なのに違和感を感じる風景。

「能恵さん」
「なぁに?」
「あんまり、無茶しないで下さいよ」
「……うふふ、心配してくれてるんだー。やーさしーんだー、そーえーっ!」

 くすぐったそうにふわふわした声を上げる能恵。そんな彼女を見る添は、心の中でため息をついた。やっぱり、遠い。

「いいのいいの。後処理はことちゃんがやってくれるから」
「こと、ちゃん?」
「あの人凄いよ? 私が知っている人の中で、私を越えた才能を持つ2人のうちの1人。ことちゃんと、そえ」
「……並べないで下さいよ」
「いーじゃんいーじゃん。あ、すみませーん、チョコパフェ1つ追加でお願いしまーす」

 能恵の中でどうやら自分は近い存在であるらしい。そんな事は無いのに、全く無いのに。否定の言葉を投げ掛けられない自分が虚しく、それでいてどこか安心だった。
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