タレントアビリティ
 翌日のニュースにも新聞にもネットにも、更にはクラスメートのブログにもプロフにも、何も載っていなかった。せいぜい個人プロフに「プールが爆発した!」程度。不思議だった。
 ただ、裏を知る人間がいる。空白添はその1人であるが、それよりもタチの悪い裏を知る人間。

「むーなしろっ!」

 こいつだ。
 昼休み入り立ての教室。サンドイッチを手にして屋上でも行こうかと思っていたところだった。

「何だよ万」
「昨日のアレ、さすが能恵さんって感じだったよな。いやーすげぇ。しかも後処理もすげぇ」
「……裏でかなり動いてるんだよ、実は」
「やっぱ? 昨日起こった事を完璧に消されてるんだよなみんな。ま、俺は個人的に知ったんだけどよ」
「記憶操作?」

 また1つスケールが大きくなった。万は意気揚々と言葉を続けていく。添としてはお腹が減ったのだが。

「詳しくは分からんけど、きれいさっぱり消えてるんだ。今日あった全校集会でも、プール事故だけが取り扱われてただろ?」
「……ああ」
「能恵さんの仕業?」
「だろうね。昨日はあれから昼メシ食って家帰ったけど、能恵さんはぐっすりだった」

 ファミレスから帰るや否や、「もう無理寝るぅ」といって添の膝を枕にして眠ってしまったのが能恵だった。おかげでやりたいことが何も出来ずに、1日動けない休みを過ごすという悲しい事に。

「は、はーん。じゃあやっぱり裏で何か動いてたのか」
「ああ。どうやら能恵さんにはそれなりのバックがあるみたいでさ。能恵さんと肩を並べるくらいの才能を持っているとか」
「……そりゃすげぇ」
「もういいか? 俺メシにするから、じゃーな」
「また屋上かよ」
「分かり切った事を」

 それだけを言い残して万と別れる。昼休みの賑やかな教室や廊下、階段を通り抜けて屋上へ。鉄の扉を開くと、晴れやかな空の下にやっぱりいた。

「あ」
「あ」

 拍律風音が、立っていた。
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