タレントアビリティ
「昨日はどうも、いろいろとありがとうございました」
「いやあ。でもあんな体験、二度とゴメンだけど」
「私にはいい機会だったんですよ。お父様に分かって貰えて、私も何か心の突っ掛かりが取れたような。そんな、不思議といい気分なんです」
「……ふぅん」

 屋上のフェンスに2人並んでもたれ掛かる。添はサンドイッチをかじりながら風音の話を聞いていた。
 風音は昼ご飯を食べないとのこと。差し出したサンドイッチをそんな風に断って、それからまた続ける。

「お父様にあの後、言われたんですよ」
「何て?」
「『やりたいようにやればいい。音楽の才能は拍律の血かもしれないが、音楽は個人のものだ』って。お父様らしいです」
「……なるほどね。よかったじゃん風音さん」
「はい。私はきっと自分で自分を縛っていたんだと、そう思うんですよ」
「父親から下手だと言われ続けてたから?」
「……多分」
「ふーん」

 サンドイッチを押し込んで座る。やや熱いコンクリートが尻を焼くが、あまり不快だとは思わなかった。
 風音を見上げる。確かにどこか吹っ切れたようなそんな表情に、金の髪が揺れていた。

「金髪って地毛?」
「え? あ、ああ、はい。私クォーターですから。でもお父様もお母様も、普通の黒髪なんですよね」
「……ああ、な」

 いわゆる劣性遺伝。髪が金である代わりに、肝心の音楽の才能をやや失っていたのかも。皮肉な話だと、添は勝手に決めた。
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