タレントアビリティ
 睦貴 走馬。むつあて そうま。それが万引きボーイの名前だった。

「そうま君か。ごちそうさま」
「……どーいたしまして」
「感謝しなさいよ? お姉ちゃんのおかげで、そうま君は助かったんだから」
「お姉ちゃんって歳じゃないよね? ボクより下でしょ?」
「……添、イチゴスペシャル」
「はいっ。すみませーん、イチゴスペシャル1つ下さーい」
「あんた、またかい? あいよ、700円」

 人懐っこいおばちゃんからイチゴスペシャルクレープを受け取り、走馬の財布からこうして700円が喪失。能恵に渡すと満面の笑みが浮かんだ。
 走馬が能恵を苛立たせるような事を言えば、彼の財布からクレープ代が消える。そんな話の場を組み立てたのは能恵だった。

「私は21です」
「……すみませんでした」
「ま、いっか。そえ、財布返してあげて」
「中身無いんですが」
「うわああああん!」

 すっからかんになった財布を歎く走馬。そんな走馬を能恵はなだめ、そして尋ねた。

「で、どうして万引きを? そうま君中学生でしょ? それくらいの常識はあるんだろうけど」
「……べっつに。お金に困ったからカルティエ売りさばいて生活費にしようかなって思っただけだよ」
「生活費?」

 中学生には似つかわしくないそんな言葉に、今度は添が座って尋ねる。能恵の前に積まれていた適当なクレープを1つ頂戴して口に運ぶ。「納豆キムチクレープ」だった。泣きたい。
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