タレントアビリティ
「睦貴走馬、だったかしら」
「そんな名前でしたね」
「聞いたことはないわ。けど、興味はあるかもしれない」

 狂ってしまった口の中をタンニンで洗浄する能恵。さすがに多種多量のクレープには、いかなる才能とて敵わない。きっと。
 冷たい緑茶を啜りながら、そして添も洗浄。あんなクレープを開発したおばちゃんが恨めしい。

「興味?」
「生活費が必要な中学生が、あれだけの才能を持っている」
「……身体能力ですか」
「きっとそれだけじゃないわね。万引きで生活費を稼いでいたってことは、つまりは、かなり多額の賞品を盗んでいたって事だと思うわ。現に今日も、カルティエの時計。時計店は『万引き』じゃないわ。『強盗』よ」
「こっそりショーケース壊すのは無理だよな、確かに」
「だから、彼には何かしらある。間違いないわ。そうね、どんなものが当て嵌まるかしらね」

 能恵には才能がある。しかしそれ以上に、能恵は他人の才能をピンポイントで見抜く事を得意としていた。
 風音の一件に関してもそう。才能の対義にあたる、『欠落』を見抜いたからこそ、彼女が何年も抱えていた闇を取り去っていた。自他共に理解して、欠落を支える。能恵が得意とするものだ。
 だが、たった1人だけ通用しない人がいる。

「それ、当たるんですか?」
「……どうしてかそえには通用しないのよ」
「それはどうしてですかね」
「分からない。私にも分からないこと、あるのよ。それはさておき、さっきのあの子……。明日会ってみようかしら。でもなー、さっきつめたーくやっちゃったからなー。あー」

 畳に寝転がってごろんごろん転がり転がる能恵。こうすると脳がくるくる回って活性化するとかしないとか。やらないけど。
 添もぼんやりと考える。かといって別に気になるようではないらしい。才能に否定的だった風音ほどは、自分の感情に触れるようではない。
 だから、どうでもいい。かもしれない。
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