モラトリアム
アタシの耳には
バラードが流れている。

見えている現実とは反対に、

アタシの耳には
ゆっくりな曲。


そうしたらアタシは、
なんだか今この現実に

ひとりだけ置いていかれているような気がした。

毎日毎日渋谷に来て、
ご飯の時間に帰る。


その繰り返し。

喉の奥には、
いつも何かがつっかえている。


取れない。

苦しい。

うつむいて、
ローファーのつま先を重ねてみたり、

ハの字に広げてみたりする。


そうしたら、
苦しいのも、
つっかえているものも
取れていく気がした。
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