モラトリアム
「ご……ごめん」

アタシは彼の正面に回り、
頭を下げて謝った。

他にどう謝ったら伝わるだろうなんてことも考えた。

初対面なのに、
こんなこと言って。


「別に気にしなくていいよ。嘘だから」


90度の角度で、
アタシは渋谷のど真ん中で頭を下げていた。


う そ ?

「は?!」


アタシは頭を急いで上げた。

「うそ?」

「嘘」


アタシは大きくため息をついて、

膝に手を置いた。
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