金星に帰る
「もう、帰るん?」
シャツを羽織った衣擦れの音に目が覚めたのか、ベッドの中のアカネが小さな声で聞いてきた。
布団を頭まで被って眠るのがアカネの癖で、そのせいか抑揚のないくぐもった声に聞こえた。
「帰る。終電間に合うし」
短く答えると、アカネは布団に入ったまま「ん」と言った。
アカネの返事はいつも短い。
「また来るから」
そう言ったが応えはなかった。
アカネは布団から顔を覗かせる事もなく、浅い眠りの波間を漂っている。
俺のことを未練がましく見送ったりなんかは絶対しない。
引き止められたこともなければ、また来てねとか、次はいつ?とかそんなことも絶対口に出さない。
一番始めの頃からずっと、別れの挨拶はそっけない。