金星に帰る
「明け方、東の空に光っとるでしょ」
それは知っている。
明けの明星、と言われる時だ。
金星はこんな都会の空でも肉眼で見ることが出来る、数少ない星の一つ。
アカネは毛布の中でくるりと向きをかえると、俺に身体を寄せてきた。
「シュウちゃんは金星におって、時々しか逢えへん。
逢えても、もしかしたらもう二度と逢えへんかもしれん。
だけど金星やったら、仕方ないから我慢せなあかんの」
「…………」
「でも、明け方起きたら時々金星が光ってて、そこからアタシをちゃんと見ててくれんねん。
……だから平気」
そこまで言って、アカネは俺の胸に顔を押しあてた。
冷たくなったアカネの鼻先が胸にあたっている。
顔を見れば、大きな瞳を縁取る短いまつ毛が見えた。
「アカネ……」
身動き一つしないアカネは、みれば、もう安心した子供みたいに小さな寝息をたてて眠っていた。