ミッドナイト・ブルー
向かい会う時が、来るのを彼女は判っていた。
逃げなかった。
本当は逃げ出したかったのかも知れないが、身体が動かなかったと、言うべきなのか。
「えっと、山下さんの奥様ですね」
「はい」
「奥様未だお若いですよね」
「エェ未だ十八ですがなにか」
「そうですか、旦那様か奥様の御兄弟又は親、親戚は」
「おりませんが、先生親兄弟を呼ばないといけない程なのですか」
「仕方有りません、旦那様お呼びしましょう」
「待ってください。主人に言うのは二度手間かも知れませんが、私が聞きます」
「判りました、私たち医者も看護士も、お力に成りますでは申し上げます。旦那様の病名は、気管支原性癌です。俗に肺ガンと、言われる物です。
この病気は、なかなか症状が現れないのが特徴です。」
「先生、病気の説明は結構です。主人は助かるんですよね。ネエ先生」
「今も、説明したように、この病気は、発見されるのが、遅いのが特徴で旦那様の場合は・・・・かなり侵攻しているようです。」
「なんでネェ、先生賢さんがなにか悪い事したの、私未だ若いから、私の命半分あげるからネエ、助けてよ。あんなに元気で居るじゃないですか検査間違えなんじゃ無いですか」と泣き声で訴え続けていたが喋る事も声を出すことも出来ないで泣いている。
看護士が、背中を優しく優しく撫でてくれていた。
「私たちは、全力を尽くして診ますがそれだけでは足りません奥様の力がどうしても必要なんです
私たちに力を貸してください。一緒に戦いましょう」
そんな事を言ってくれていたが愛美の耳に届いてなかった。ただ、ただ泣いていた、よくテレビ等で使われる言葉で『身体を引き裂かれるような悲しみ』と、言われるが、
身体が引き裂かれてこの悲しみから逃げられるのなら引き裂いてと、叫びたい位であった。しばらく大泣きしていたが、少し冷静さを取り戻し先生に、
「先生、私絶対諦めないからどんな事しても助けるから力貸して、でも今は駄目だ身体に力が入らなくて胸が苦しい治療の方法とか言われてもなにも頭の中に入らないから後にして」
「判りました。後で落ち着いてからにしましょう
それからどうします旦那さんに私の方から伝えましょうか」愛美が悲鳴の様な声で、
「先生止めて、あの人には、黙っていて時期を見て話しますから」
「でも、余り長くは待てないよ。・・・
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