アナタがいたから
龍印
何処をどう走ったのか分らないまま、私は俯いてトボトボと足を動かしている。
走りながら思いっきり泣いた。
こんなに泣いたのは久しぶりだ。
小学生の頃、私は両親を失った。
引き取られた親戚の家は絵に描いたように私を邪魔者扱いした。
高校に入ると同時に私は両親の遺産を手に入れ、そして、親戚の家を出る。
【信じられるのは自分自身】
【泣く事は負け】
そう思って今まで歯を食いしばってきた。
多少の事ではくじけない。
人の醜いところを全て経験してきたし、自分も醜くなったこともあったから……。
でも、そんな私でも……今回は……
「今回はちょっときついよ……意味が分からないもの……」
「……意味を考えるから意味がわからなくなるんじゃないのか?」
その声に俯いていた顔を上げ、私は周りを見渡した。
暗く冷たい岩肌が見える。
「ココ何処?誰かいるの?」
「ココは城の地下、はるか昔に牢として存在し、そして今もその役割を果たしている場所だ」
声は通路の脇に無数に並ぶ、岩をくりぬいた部屋の1つから聞こえてきて、私はその部屋に近づいて中を覗いた。
ボッっと小さな炎がついて、周りを照らす。
小さな炎は濡れたような黒髪に、どこかで見たことのある顔の人物が出したようで、その手の平の上で揺れ動いていた……
「翳さん?……じゃないわよね……って言う事は梟さん?」
「クス、そう、良く分ったね」
「本当に双子なのね。良く似てるもの……」
鉄格子の向こうに居るその人物は私の方へ歩いてきて格子の間から腕を伸ばし、私の頬を触った。
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