欠陥ドール
ずっとずっと前の、曖昧な記憶。
初めて君と出会った日。
「お父さん」に連れられて、やって来た大きな屋敷。
見知らぬ場所が怖かった。
まだ背が同じくらいだったカナンとずっと手を繋いでた。
お父さんは今日からここがあたし達の居場所だと言った。
『カナン、マリー。ごめんね。もうお別れだ』
頭を撫でるお父さんの手が離れていくのが寂しくて、その手に縋り付いた。
でも、カナンは黙って首を横に振ってあたしを引っ張っていく。
寂しそうに手を振るお父さんを見て、もう会えないんだろうと、なんとなく思った。
別れる間際、お父さんがあたし達に最後に言った言葉。
なんだっけ。今もぼんやりと覚えてる。
『…君達はドールだけど、幸せになっちゃいけないなんて事、ないんだ。忘れないで』
今でも、優しい声の響きだけが耳に残ってる。
あたしはまだ、その言葉の意味を知らないでいる。