roulette・2
恐ろしい誘惑に負けなくてよかったという安堵の中で、ふと最後の祐樹の後ろ姿を思い浮かべた。

するとほっとする気持ちを遥かに超える孤独感が襲ってきて、溢れんばかりの涙がみるみる湧き出してしまった。

結局、私は一人ぼっちになっちゃったんだ。

ゆっくり俯いた瞳から、ぼろぼろぼろっといくつもの雫が零れてコンクリートの上で弾けとぶ。

きっとこの氷点下で、落とした私の悲しみも凍り付くのだろう。

恋人達が寄り添うクリスマスに唯一の愛を失った私は、何も考えられずにその場でぺたんと座り込んでしまった。

「お疲れ様でございました」

背中を丸めて小さく肩を震わす私の頭上から、突然慈しむような声がゆっくりと降りてくる。

泣き濡れた表情のままぼんやりと顔を上げた私の前には、黒のタキシードにシルクハットを被った翁が静かに立っていた。

「……あ」

無意識に声を漏らして目を見開き、両手でぽっかりと開いた自分の口を押さえ付ける。

「お嬢さん、願いは叶えました。それでは参りましょう」

白いグローブの指先でシルクハットのつばをクイッと持ち上げ、それを優雅に胸元にあてた翁が深々とお辞儀をする。
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