roulette・2
「え?どこへ?」

「“資格”を持つ者だけが行けるある場所へ」

優しく目尻に皺を寄せた翁がそう言った途端、暗く冷たいマンションの廊下だった景色が一瞬で明るく暖かいものに変わった。

「ええ!?何これ!?」

毛足の長い真紅の絨毯と、その向こうがどうなっているのか想像もつかない真っ黒で重厚なドア。

そして、優しさ以外の感情が切り取られたようにない翁の笑顔とただひたすら困惑する自分。

……広くて何もないどこかの部屋?

どうやら一度瞬きをしたかどうかという合間に、座ったままで見知らぬ場所に移動させられたようだけれど。

目の前で起こった現実が何一つ信じられないこの頭はどんどん混乱するばかりだ。

私はなす術もなく途方に暮れ、呼吸も忘れて翁を凝視するしかなかった。

「ようこそ、rouletteへ。首を長くしてお待ち申し上げておりました」

「ルーレット……?」

シルクハットを胸にあてたまま、口元をほころばせた翁が大きく頷く。

「さようでございます。お嬢さんはルーレットをご存知かな?」

翁の質問に小首を傾げて考えたけれど、私が知っているルーレットは一つしかない。
< 4 / 11 >

この作品をシェア

pagetop