roulette・2
「……回る円盤に小さな球を投げて、どこに入るか当てるゲーム?」

私の答えに満足そうに笑った翁が、立てた人差し指をシーッと口に持っていく。

そして何とも楽しそうにその手をそっとシルクハットの中に入れた。

いぶかし気にじっと見上げる私の瞳が次に映したものは。

キョロキョロと動く真ん丸い黒目に細長い手足、短いけれど柔らかそうな毛に包まれた小さな体。

「……サル?」

翁の掌にすっぽりおさまるほどのそのサルが、素早くタキシードの腕をつたって肩に駆け上がる。

「あれ?何か手に持ってる」

よくよく見ると、サルは右手に赤黒い血のような色の丸い球を握っていた。

「リッキー、ご挨拶なさい」

ハットを被り直す翁の言葉に反応したリッキーが、肩の上で私に一礼する。

あまりに自然なその振る舞いに、ただの動物ではない雰囲気を感じた。

「……どうも」

思わず私もそそくさと立ち上がりリッキーに向かって軽く頭を下げる。

……サル相手に何かしこまってるんだろ、私。

少しずつ落ち着いてきた私は、こんな見知らぬ場所で悠長に話をしている場合ではない事にやっと気付いた。
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