roulette・2
「ところであなたは誰なの?昔会った記憶があるんだけれど」

リッキーをあやす翁を真っ直ぐ見詰めると、思いの外真剣な視線が返ってきた。

「覚えていたのだね。それは光栄だ。リッキー」

リッキーを呼んで肩から右腕に移動させたあと、翁が話を続ける。

「私は貴女が“資格”を手に入れるまでずっと待っていました。あの日、一度迎えに行った時、貴女はまだ幼過ぎた。あんなに無垢では意味がない。それに、私とした事が見事に逃げられてしまった」

クツクツと抑えるように笑う翁の言葉で、私の脳内に古びた映像がよぎる。

微動だにしない黒く大きな物体と両手に染み付いた血液をそのままに、闇雲に雪の中を走り抜ける小さな自分。

そうだ。私はあの後死に物狂いで家に帰ったのだ。

共働きで不在がちの親をこの時ばかりは心底ありがたいと感謝した。

それからしばらく人を殺した事実がばれてしまう事を怖れて暮らしたけれど。

不思議な事に捕まるどころか事件がニュースになる事もなかった。

「さっきから資格資格って、一体何の資格なの?全然意味がわからない」

全く繋がらないばらばらのピースに私は深いため息をついた。
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