roulette・2
すると温かかったはずの翁の瞳の奥に暗く冷たい色がにじんだ。

まるで別人の面影に思わずぞくりと背中が粟立つ。

「それはこれからリッキーが教えてくれるでしょう。リッキー、行きなさい」

翁が右腕にちょこんとしゃがんでいたリッキーを私に近付ける。

警戒心のかけらもないリッキーは、私の肩に飛び付いて素早く首を一回りしたあと、セミロングの髪の中に隠れてしまった。

「きゃっ」

驚いて短い悲鳴を上げた私が翁を見たのと同時に、パチンッと指を弾く音が響く。

「ああっ」

ふわりと体が落ちそうな感覚に包まれたと思ったら、もう私は自分のマンションの部屋にいた。

真っ暗闇の中、いきなり窓際に立っている自分が理解出来なくて、うまく力の入らない両方の掌をまじまじと見下ろす。

「……夢、じゃないよね?」

そう呟いた時、不意にざわざわと全身に鳥肌が立った。

「いたたたっ、やだっ、ひゃっ、くすぐったいっ」

私の耳の下から小さな顔を出したリッキーが、髪の毛や首筋をつかみながらおどおどと辺りを見渡している。

そんな至近距離の手の中に妖しく輝く血糊のような赤い球に自然と視線が移る。
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