雪に埋もれた境界線
「磯崎さん、黒岩玄蔵氏は食堂へいらっしゃらないんですか?」

 清掃員の木梨は眉をひそめ、良く通る低い声で質問した。

「旦那様は人見知りが激しいお方で、皆様とは明日、一人ずつお会いすると申しておりました。他にご質問はありますか?」

 磯崎は木梨の質問に答えると、候補者達を見回し、他に質問がないようだったので、それぞれが持っていた携帯やノートパソコンを黙々と回収した。

 わざわざ携帯やノートパソコンを回収するなんて、面接の質問とやらはクイズみたいなものなのだろうか。そうでなければわざわざ回収することもないだろうし。それに人見知りが激しいと執事は云う。やはり黒岩玄蔵氏は、相当な変わり者かもしれないな。陸はそんなふうに考えていた。

「では食事の前に、この屋敷にいる使用人達をご紹介致します。入りなさい」

 磯崎は段ボールに候補者達の携帯や、ノートパソコンを回収し終えると、扉の向こうに声をかけた。すると食堂の扉が開き、ぞろぞろと男女が入ってきたのである。

 コックの服を着ている中年男性二人は、見た通り料理人だろう。そしてメイド服を着た白髪の清潔感ある中年女性と、同じくメイド服を着た小柄で化粧の濃い中年女性だった。
 使用人である四人は執事の磯崎と同じで、全員無表情である。まるで何の感情も持たないロボットのように。それが却ってこの屋敷に相応しく、異様な雰囲気に拍車をかけていた。

 コックの中年男性は、梅田と川西と名乗った。二人は同じコック服に身を包み、よく似た顔立ちだが、梅田は陸と似たような体格で身長は同じくらいだ。川西は女性のように小柄だが、太い腕がパンパンだったことから筋肉質に見えた。
 次にメイドの白髪の中年女性は、落ち着いた声で鶴岡と名乗った。女性にしては背も高く、髪の毛を後ろに一つで纏めており、清潔感のある女性だった。
 そして最後に小柄な中年女性は、赤い口紅が妙に浮いている口で半田と名乗った。小太りで、髪の毛はパーマをかけており頭が大きく見える。

 使用人達が自己紹介を終えると、磯崎は「戻っていいぞ、鶴岡、半田、料理を運んできなさい」と、メイド二人に命じた。
 緊張しているのだろう候補者達は口数も少なく、料理が運ばれてくるのをじっと待っていた。汚らしい高田だけがテーブルに肩肘をつき、夢中で鼻毛を抜いている。

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