雪に埋もれた境界線
「お、俺じゃねーよ。同姓同名の別人だよ。俺は知らねぇ!」


 テレビを見た高田がソファから勢いよく立ち上がると、明らかに狼狽しながら視線を泳がせ、大きな声で怒鳴り声を出した。

 どうして高田はこんなに慌てているんだろう。同姓同名の人がいるなんて、別にあり得ないことではないのに。陸はそんな高田の態度を不思議に思った。


「高田さん、あなた高田順平って名乗っているけれど、本当はお金目当てで偽者だったりしてね」


 先程、高田に馬鹿にされた会社員の座間が、根に持っていたのか冗談っぽく毒舌を吐いた。

 
「何だと! ふざけるな! 俺は本物の高田順平だよ!」


 高田は顔を真っ赤にし、座間に掴みかかる勢いで怒鳴った。


「本物の高田順平さんなら、招待状を見せて下さらないかしら」


 そこで、やはり座間と同じく根に持っていた様子の相馬が、意地悪な顔をして高田に手の平を突き出した。


「そっ、そんなもの持ってきてるわけないだろ! 家に置いてきたよ」


 高田はうろたえながら、そう答えるのがやっとのようだった。

 久代はそんな高田の姿に可笑しくなったのか、くすくすと笑い声を洩らした。


「マジ、偽者じゃないの〜。うける〜」


 木梨は訝しげな表情で高田を見ており、全員に疑いの眼差しを向けられた高田は耐えられなくなったのだろう。


「うるさい、うるさい! 俺はもう帰らせてもらう」


 ひと際大きな声でそう云うと、高田はサロンから逃げるように出て行った。


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