雪に埋もれた境界線
「おはようございます。皆様にお伝えしておくことがありますので、どうぞ、朝食を召し上がりながらで結構ですのでお聞き下さいませ。昨夜、高田さんが内線で『帰る』ということを仰ったので、私がすぐに高田さんのお部屋に伺うと、何やら慌てた様子でしたので、お預かりしていた携帯電話を返しました。そして屋敷から出て行かれましたので、高田さんは失格とさせて頂きました。では午前十時になったら、一人ずつお呼び致しますので、それまでごゆっくりとお過ごし下さいませ」


「磯崎さん、相馬さんも帰られたのですか?」


 会社員の座間が太い声で質問すると、磯崎は相馬の席を一瞥し、淡々と答えた。


「それは存じませんが、まだ寝ていらっしゃるのかもしれませんね。しかし、面接でお呼びしても来られないようでしたら失格になってしまいますが」


 参加者達の目が光ったのを陸は見逃さなかった。同時に憂鬱な気分にさえなった。

 お金という欲が強くなりすぎて、人に対する思いやりがなくなっていく人間の様が垣間見られたからである。


「それでは、これで私は失礼致します」


 磯崎は無表情のまま踵を返し、食堂を出て行った。


「相馬さん、昨夜飲みすぎたんですかね」


 座間がコーンスープを一口飲むと、そう云った。


「普段、高級なワインなんか飲まないから、飲み過ぎちゃうのも仕方ないよねぇ」


 久代はフォークでベーコンエッグを突っつきながら答えた。


「そうだね。相馬さん結構飲んでたから。顔、真っ赤だったものね。後で起こしに行ってきた方がいいかな」


 陸がそう云った途端、木梨と座間と久代は顔色を変え、眉をしかめた。

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