雪に埋もれた境界線
 木梨は三人を鋭い目で見渡した。やはり疑心暗鬼になっているのだろう。完全に候補者達を疑っている目だ。

「私は犯人じゃないからね。殺人なんてありえないよ」

 久代はテーブルに置いてあったタバコを取り出すと、震える手で火を点けた。

「そうかな。久代ちゃんがさっきのニュースで殺された女の人に成りすましている可能性だってあるんじゃないかな。もし偽者だとしたら……ねぇ」

 木梨は冷ややかな眼差しを久代に注いだ。やはり久代と同姓同名の人が殺されたというニュースを見てから疑っていたのだろう。そして久代が偽者だとしたら、相馬さんを殺した犯人ではないかと云わんばかりの様子である。

「私は本物だって云ったじゃん」

 久代は声を荒げて反論したが、座間も久代を疑っている様子だった。

「それは久代ちゃんが云ってるだけで、本物だって嘘を付いているだけかもしれないじゃないか。そして偽者だということを、相馬さんに見破られたから殺した、とかね」 

 本当にそうだろうか。久代が偽者だとは思えない。
 さっきのニュースでは、今朝早く、この屋敷の近くで被害者は殺されていたと云っていたけれど、殺害現場となった公園は、この屋敷から近いといっても歩いていける距離ではないし、崖崩れが発生していたのだから。久代が本物だとしたら、相馬さんを殺すこともないだろうし。

「待って下さい。さっきのニュースでやっていた被害者の女の人を久代ちゃんが殺し、本物に成りすますことは不可能です。崖崩れが発生していた事実は磯崎さんが云ってたじゃありませんか。木梨さんも座間さんも、冷静になって下さい」

 陸は強い口調で木梨と座間に反論したが、油に水を注ぐ結果になった。

「陸君、ニュースの被害者を、ここにいる誰かが殺すことは不可能だとしても、君が相馬さんを殺した犯人だという可能性だってある。欲がないようなことを云って、本当は誰よりも欲がある人間なのかもしれないじゃないか」

 木梨は矛先を陸に向けた。それに反応した座間も、陸の顔を睨みつけた。

「そうですよ。何せ私達候補者は昨日が初対面なのだから、本人の云う言葉しか分からない。私はこんな状況になった今、誰も信用なんて出来ないね」

 陸は溜息を吐くと、無性にタバコが吸いたくなり、久代に一本貰うことにした。


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