雪に埋もれた境界線
「俺が犯人だったら、久代ちゃん、今ここにいたら危ないんじゃない?」


 陸が両腕を広げ、おどけてみせると久代はようやく笑った。
 それからは事件のことを少しでも払拭するかのように、他愛もない世間話しなどしていた。

 ふと、部屋の掛け時計に視線を向けると、午後二時五十分を示していたので、陸は立ち上がった。


「久代ちゃん、そろそろサロンに集まる時間だから行こうか」


「行きたくないな。また疑われたら嫌だし、陸と部屋に篭ってたいよ」


 久代は子供のように、椅子に座った足をブラブラさせた。


「仕方ないよ。行こう」


 なるべく優しく久代に声をかけ、二人はサロンへ向かった。

 すでに他の者達は使用人も含め、サロンへ集まっているのだろうか。廊下は静まり返り、誰ともすれ違うことはなかった。

 サロンの扉の前まで来ると、陸と久代は深呼吸し、扉を開けた。

 すでに候補者、使用人が揃っており、ソファに腰掛け誰一人会話をしている者は居らず、サロンには重い空気だけが漂っている。

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