雪に埋もれた境界線
「これで揃いましたね。では全員のアリバイを訊かせて頂きます」


 磯崎の甲高い声が室内に響いた。すると、良く通る声で木梨が質問した。


「磯崎さん、黒岩玄蔵氏がまだお見えになっていませんが、いらっしゃらないのですか?」


「さようでございます。旦那様が犯人だということはございませんから」


 磯崎が強い口調で断言したので、誰も異論を唱える者はいなかった。


「先程、私は丁度お昼を過ぎた頃でしょうか、候補者の皆様を食堂へご案内してから、応接間に用があったものですから入ったのです。その時、ソファの方向が変だということに気付き、直そうと近寄ったら相馬貴子さんの遺体を発見したのでございます。今はそこにいる料理人の梅田と川西に頼み、彼女の遺体はお部屋に運ばせて頂きました。相馬貴子さんを最後に見た方はどなたでしょうか?」


 そこで、久代がおずおずと手をあげた。


「多分私です。昨夜、サロンで他の候補者達と一緒にお酒を飲んでいて、相馬さんと一緒に二階へ上がったから」


「では、彼女が部屋に入るのを確認しましたか?」


「お互い手を振って同時に部屋に入りました」


「そうですか。では相馬さんは一度部屋に戻られてから、応接間へ向かったということでしょうか」


 磯崎は、久代の話しを疑うような発言は一切しなかった。

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